2010年08月28日

"PERFECT BLUE"


パーフェクトブルー【通常版】 [Blu-ray]

パーフェクトブルー【通常版】 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: Blu-ray



追悼 今敏


オトナ帝国」と同じく昔の作品なので、いつか機会があったら語ろうとずっと思っていたのですが、まさかこの短期間で2度も追悼目的で好きな作品を語ることになるとは思っていませんでした。
今敏というと、おそらく「パプリカ」が一番有名な作品かもしれませんが、この「パーフェクトブルー」という作品は、今敏監督のデビュー作にして、最高傑作だと思っています。
それどころか、日本の劇場版アニメ史上でも、TOP10に残る作品ではないでしょうか?
最大の難点を言うなら、残酷な殺人場面、そしてレイプやヌードのシーンがあるので、子供や女性には観せにくいということでしょうか(実際に日本や海外ではR-15かR-18になっています)
しかし、それでも、少なくともLE ROI TRISTEの中では、歴代6位ですね。
だって、こんな作品今でも他に観たことがないから。
ハリウッド映画で例えるなら、「羊たちの沈黙」や「セヴン」のようなサイコ・スリラーやサスペンス映画を観ていたはずなのに、まるで「マトリックス」や「シックス・センス」のようなSFやオカルト映画を観ていたかのようなこの感覚
とても言葉では言い表せない。
とにかく何度観ても、怖くてキモくて後味が不気味すぎる作品です。

今観ると、明らかに時代を感じる絵柄、登場人物、音楽、それでいてアニメでありながら、非常にリアルなキャラクター・デザイン。
なにより、アニメでは珍しいサイコ・スリラーという作品。
ジブリぐらしか知らない人は、何故これを実写じゃなくてアニメでやるのか?と思うかもしれない。
だが、1度この作品を見始めれば、鮮やかに交差される時間軸と、細かい描写に目を奪われ、他の作品とは一味違うことに気づくであろう。
そして次々と入れ替わり、共存していく現実と幻覚。
そんなカオスな世界観を見事に表現した映像。
これは当時はもちろん今の邦画でも実写でやることは不可能だろう。
何故なら、これほどまでに細かく描きこまれたこの映像美は、実写よりもよっぽど現実っぽいからだ。
アニメで現実と幻覚の比較を描く以上、土台となる現実の描写を疎かにできないし、実際にしないのが今敏なのだ。

いかにも売れなさそうなアイドル曲というリクエストで出来上がった曲(笑)につけたダンスのあの肉感。
そして殺人シーンでは、他のアニメのように勢いではなく、写実的で冷酷に痛みを感じさせるような凶器を振り回す動き。
アニメでありながら、それらが全て生々しい。
だが、その強固な土台があるからこそ、遠慮無く幻覚を大暴れさせることが出来るのだ。
だからこそ、描かれた幻覚が恐ろしい。
ここまで幻覚を恐ろしく表現できた映像作品が他にあっただろうか?
言ってしまえば、これはもはやアニメを超えたアニメなのである。
そんな作品を、監督デビュー作で創り上げてしまったのが今敏なのだ。
極端な話、これ意向の作品は、この作品ですでにほぼ完成させてしまった土台を利用して、違う家を建てていっただけにすぎないと言っても過言ではないだろう。
それだけこの作品は、唯一無二の存在感を放っている。

そして、映像表現以外のとこだと、岩男潤子さんの大熱演にも触れざるを得ない。
この映画の恐怖感や不気味さは、今監督によるところが大きいかもしれないが、この映画の緊迫感は間違いなく岩男潤子さんによるところが大きい。
もし今監督が存命であれば、映像的なリメイクは可能だったかもしれないが、この岩男潤子さんの代わりが出来る若手声優がまるで思いつかない。
特にあの真に迫る悲鳴っぷりは、歴史に残る緊迫感をこの作品に残してくれた。
まぁ、今監督も書いていたが、"彼"の声というかしゃべりは賛否両論かもしれないが(w。

最後に、この作品の制作秘話をまとめた手記を、監督の公式サイトで読むことが出来ます。
これがまた素晴らしいヴォリュームで、本来であれば出版されていてもおかしくないほど充実しているのですが、完全に無料で読めてしまいます。
不気味な後味を残す最後のシーンも、これを読む限りでは、ハッピー・エンドとして監督は描こうとしていたことがわかります。
もっとも、それ以外だと、問題があったスタッフをほぼ名指しで特定できそうな形で罵倒していたり、その他にも今監督ならではの毒舌が多分に含まれているので、監督の人と成りが良く分かるような気がしないでもありませんが(w。
しかし、このような毒舌キャラだからこそ、あの最後の遺書の印象が変わってくるのです。
今回の訃報であの素晴らしい遺書をご覧になった方も多いと思います。
ただ、あの遺書は、この手記だったり監督の他の作品を全て観た身としては、監督の最後の作品だったような気がします。
自分で自分の最後というか、遺書をドラマチックかつドキュメンタリー風に演出したのだと思っています。
最後の最後まで自分の視聴者のことを意識していたからこそ書けた遺書だったと思います。
だからこそ、監督今敏の誕生となった最初のこの作品も(出来たら他の作品も)、是非観ていただきたいと思います。
そして命だけではなく、失われたこの才能にも思いを馳せていただけたら幸いです。

posted by LE ROI TRISTE at 17:48| シアトル ☀| 邪道式映画評論 [Movie Reviews] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする